遺体の身元確認といっても、ただの遺体ではありません。航空機事故の遺体、しかも事故が発生したのは8月12日の夜。真夏です。ジャンボ機には乗客乗員合わせて524人が乗っていました。その中で奇跡的に生存した方が4人。つまり、520人の方々の遺体を検視することとなったのです。五体がそろっている遺体ばかりではありませんから、実際に回収されてくる遺体は520の数倍にのぼります。暑いさなかのことで、遺体も刻一刻と傷んでしまいます。ただでさえ見るに堪えない状態の遺体が、腐敗してさらに崩れ、無数の蛆(うじ)にたかられて、強烈な悪臭を放っている。そんな中、身元確認作業に従事した警察官、医師、歯科医師、看護師たちは、誤認引き渡しの絶無を期し、身元につながるひとかけらの情報も見逃すまいと、ろくに休む間もなく遺体と対峙(たいじ)し続けるのです。
運ばれてくる遺体の描写は、読み手の想像を超えた酷いものがほとんどです。人の形をとどめていないそれらの遺体を、組織がこれ以上剥がれ落ちないように汚れを取り、髪の毛や顔、体はもちろん、脱出した内臓まできれいに洗い、ひつぎに安置するときは、できるだけ元通りの姿に戻そうとする日本赤十字社の看護師たちの姿が、とりわけ印象に残ります。