見どころは数多い。が、この地の「水と土」をめぐる負の遺産を通じて、見る者に熟考を迫る高橋伸行「旅地蔵-阿賀をゆく-」だけは特筆しておきたい。
今年は新潟水俣病が公表されて50年にあたっている。豊かな恵みをもたらすはずの阿賀野川上流からの工業廃水に混じった有機水銀で引き起こされたこの大規模公害は、いまだ全面解決にはいたっていない。高橋はこの時間の流れのなかで居場所を失った供養の地蔵を探し出し、リヤカーに乗せて阿賀野川上流まで運び、地蔵に命を吹き込んだ。土地の恵みだけではない。私たちがアートを通じて出会うのは、過去の過ちから学ぶ新しい知恵でもあるはずだ。(美術批評家、多摩美術大学教授 椹木野衣(さわらぎ・のい)/SANKEI EXPRESS)
■さわらぎ・のい 同志社大を経て美術批評家。著書に、「日本美術全集19 拡張する戦後美術」(責任編集、小学館)、「戦争画とニッポン」(会田誠共著、講談社)、「アウトサイダー・アート入門」(幻冬舎新書)、「後美術論」(美術出版社)、「日本・現代・美術」(新潮社)、「シミュレーショニズム」(ちくま学芸文庫)ほか。多摩美術大学教授。
【ガイド】
■「水と土の芸術祭2015」 10月12日まで、4つの潟と新潟市内全域。作品鑑賞に関わる料金は無料。実行委員会(電)025・226・2624。