【アートクルーズ】
職人かたぎのアーティストで、「抽象彫刻」「鉄の彫刻」の草分けと呼ばれるスペインの彫刻家、フリオ・ゴンサレス(1876~1942年)は、パブロ・ピカソ(1881~1973年)に鉄の溶接技術を教えた。ゴンサレスの日本初の大型回顧展が世田谷美術館(東京)で開かれていて、そのていねいな仕事ぶりと、どこかユーモラスで温かな作風に癒やされる。
展示会場に入って間もないところに、「ダフネ」が立っている。高さ140センチの作品は抽象的だが、何かの樹木のようでもあり、人間の踊る姿のようにも見える。
ギリシャ神話で、エロス(キューピッド)がアポロンに「恋」の矢を、ダフネに「拒否」の矢を射たために、アポロンから逃げるダフネは最後に月桂(げっけい)樹の木に変身してしまった。そんなエピソードを思わせるように、作品はユーモラスだが悲しげでもある。何より、美術館の窓から見える自然あふれる風景と美しく調和している。