記憶を辿るこの小道を行けば、少年時代の思い出がやってくる。なんてことを思わせてくれる尾道の裏道=2014年12月29日、広島県尾道市(長塚圭史さん撮影)【拡大】
恐怖感じるポスター
子供の頃の眠れない夜は一大事である。深夜眠れない少年時代の私を悩ませたものはいくつかあるが、一つは隣室での大人の宴会であって、何が楽しいのかわからないお喋りと音楽とにうんざりしたものだが、しかしそれは怒りの不眠であって、実はさほど問題がない。そう。やはり恐ろしいのはシンと家中が眠りについてしまったあとの、暗闇の孤独な恐怖である。
子供というのはどこをどうやるのか当たり前の風景から恐怖を抽出する術に極めて長けている。姉が好きだったバンドのポスターが丁度二段ベッドの下に陣取る私の目線に入ったのだけれど、そのメイン・ボーカリストのメイキャップがどうやっても死霊にしか見えなくて困ったことがある。日中は問題ない。寧ろその歌声には私もかなり惹かれており、いくつか曲も口ずさめるほどにもなっているのだ。しかし夜中になると一変。その歌手の姿は黄泉の国からの死霊に変化するのだ。しかしあの人たちは「安全地帯」なのだ。わかっているのにどうして何がホラーにさせるのか。よくよく考えると、あのビジュアルは『プルシアンブルーの肖像』というちょっと怖い映画の前後で、その時の彼らは凄いメイクをしていたんじゃなかったかな。だとしたら、正当な恐怖であったのだと主張したい(既に小学5年生くらいではあったけれども)。