記憶を辿るこの小道を行けば、少年時代の思い出がやってくる。なんてことを思わせてくれる尾道の裏道=2014年12月29日、広島県尾道市(長塚圭史さん撮影)【拡大】
Hの部屋の白いアンティークのクローゼットの扉には本当に魔女がいたのかどうか。時々思い出す。塗りつぶした部分を指で撫ぜてみると、確かにそこに何者かが描かれていたような凹凸はあった。しかし魔女というのはどうなんだ。そんな恐ろしいものをクローゼットの扉に描くなんていうことが有り得るのだろうか。まして子供部屋に置くなんてことが。しかも取り替えずに塗りつぶすなんて。塗装された魔女の存在感は、寧ろ増大するのではなかろうか。大変興味深いところである。
ところで最近は、天井の木目や土壁から怪しい輪郭が浮かび上がってくるなんてことがあると反って心躍るのである。そのまま目の焦点をずらして、手を差し伸ばせば(ホラー漫画の)諸星大二郎の世界よろしく異界へ入り込めるのではないかと、少年時代の私なら目を剥いて驚くような好奇心が現在の私にはあるのである。(演出家 長塚圭史、写真も/SANKEI EXPRESS)
■ながつか・けいし 1975年5月9日、東京生まれ。96年、演劇プロデュースユニット「阿佐ヶ谷スパイダース」を結成。ロンドン留学を経て、ソロプロジェクト「葛河思潮社」を立ち上げた。台本と出演の2役で参加する舞台『夢の劇』が4月12~30日までKAAT神奈川芸術劇場にて上演。出演は早見あかり、田中圭、森山開次、山崎一、白井晃ほか。