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【書評】『その1秒をけずりだせ 駅伝・東洋大スピリッツ』酒井俊幸著

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【書評】『その1秒をけずりだせ 駅伝・東洋大スピリッツ』酒井俊幸著

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「その1秒をけずりだせ」  ■原点を忘れぬ箱根の強豪

 近年の箱根駅伝の高速化と激戦ぶりは驚くほどだ。

 私が大学生だった昭和52年の大会では、1区に当時の1500メートルの日本記録保持者、石井隆士選手(日体大)が登場し、1時間4分9秒の驚異的区間新記録を作った。ところが今年の区間賞の中村匠吾選手(駒沢大学)は同じ距離を1時間2分ちょうどで走り、実に13位の選手までが1時間2分台で走破している。

 レベルアップの大きな要因は、シューズの改良と、高校時代から実業団並みの練習をこなしていることだろう。

 それ以外の部分を垣間見させてくれるのが、6年前から東洋大学の駅伝監督を務める著者による本書である。

 私は早稲田の選手として2度箱根駅伝に出場したが、当時は中村清監督が好物の焼き芋をむしゃむしゃ食べながら「お前ら、体重が増えるから、こういう物を食うたらいかんぞ」という程度だった。しかし、今の東洋大学では月に1回の血液検査や栄養士との連携で、猛練習による故障リスクの高い選手たちの食事や体調を管理している。

 酒井監督は個々の選手の個性に応じてコミュニケーション方法を変え、本番での起用には、昔とは比較にならないほど細心の注意を払い、思い切った戦略を立てて選手を入れ替える。モチベーションの低下した選手には、監督の妻が選手の郷土料理を作ってサポートしたりもするという。

 しかし、変わらない面もある。学業の重視だ。当時の早稲田では、秋以降のポイント(重点)練習以外は、講義に出席するために、個人で練習することが認められていた。

 現在の東洋大学では、1時限目に間に合うよう、朝練習は他の大学より1時間早い午前5時に開始しているという。朝練習の後、出勤するサラリーマンたちに混じって1時間半ほど電車に揺られ、埼玉県川越市から東京都文京区白山のキャンパスに登校することは、忍耐力を養い、社会人になってからも役に立つと著者は明言する。

 学生スポーツがプロ化する風潮の中で原点を大切にしていることが、案外と同校の強さの秘密なのかもしれない。(ベースボール・マガジン社・1400円+税)

 評・黒木亮(作家)

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