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【書評】『原敬 外交と政治の理想(上・下)』伊藤之雄著

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【書評】『原敬 外交と政治の理想(上・下)』伊藤之雄著

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「原敬外交と政治の理想」  ■精緻で野心的な平民宰相伝

 「いり豆をかじりつつ古今の英雄豪傑を罵倒(ばとう)するは人生最上の快事である」

 歴史作家の海音寺潮五郎が伝える江戸期屈指の儒学者、荻生徂徠(おぎゅう・そらい)の言葉である。誤解を恐れずにいえば、本書の著者はこの徂徠的なけれんの対極にある。謹厳な姿勢を崩さず、膨大な資料を駆使し、平民宰相・原敬の人物像と時代を実証的に掘り下げてゆく。

 原については一次史料『原敬日記』また『原敬全集』が出版されている。原の養子、奎一郎は『ふだん着の原敬』を著し、『評伝原敬』(山本四郎著)をはじめ伝記類も多い。本書はこうした「原敬本」をひもといたさいに生じる疑問を解決し、見落としていた史実や歴史的背景を理解する最良の手引きとなろう。

 本書によれば、原は若き新聞記者時代から「公利」(公共性)を追求し、長じて政治家としては《敵対する者は撃破するが、そうした者でも降伏してくれば名誉を守ってなるべく味方に引き込む》という懐の深さがあった。

 また本書では、原に対する不当な批判(一例が「我田引鉄」)や史・資料不足ゆえの定説の誤謬(ごびゅう)が正される。そして藩閥政治を打破し、戦前最大の難問であった軍部や宮中における政治主導を徐々に、しかし確実に進めてゆく希代の改革者の姿が明らかにされる。と同時に原もまた「神」ではなく、見誤ることあった事実が浮き彫りにされる。

 精緻である。が、それだけではない。著者は、国内外に難題が山積する現代と約100年前に原が直面したさまざまな難局とを比較し、《理想を持ちつつ現実的に対応》した原の実像を明らかにすることによって、いまわれわれが必要な真の改革とは何かを考えることができるのだ-と説く。本書は現代的、また良い意味で野心的なのである。

 原は大正10(1921)年、凶刃に倒れる。もし彼が天寿をまっとうしたならば、戦前の日本は外交・内政ともに安定し、《満州事変から太平洋戦争へという道はなかった可能性もある》という。本書は原研究の新たなスタンダードであり、戦後70年を考えるための好著といえよう。(講談社選書メチエ・各2300円+税)

 評・関厚夫(編集委員)

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