敗戦70年の節目の年。敗戦時、著者は国民学校5年生で天皇を現人神と仰ぎ、聖戦で天皇陛下のために散華する覚悟でいた。戦に負け、当然天皇も裁判にかけられるだろうと、子供心に予想していた。
天皇が古代から、敗戦でも揺るがず一貫して2千年余続いてきた。本書は、そのように、なぜ日本人が天皇を存在させ、必要としてきたかを、敗戦の少年として歴史と神話から探索した大著だ。
ジャーナリストの著者は、資料を徹底して渉猟、専門家に直接インタビューしている。東京大学教授大津透氏からは「歴史上実在していたことが確認できる最初の天皇は雄略天皇(第21代)」だと聞き出す。『日本書紀』『古事記』には卑弥呼は全く登場せず、一応神功(じんぐう)皇后になっている。皇后が産んだのが第15代の応神天皇。ただ、神功皇后は100歳、応神天皇は110歳まで生きたことになる。
天皇家の成立は、現在では天武、持統「天皇」以降説が強い。「日本」という国家が登場するのは、702年の遣唐使の国書だとされている。
645年、倭国では「大化の改新」事件が起きた。古代史の権威吉田孝氏に聞いている。
蘇我入鹿を暗殺する中大兄(後の天智天皇)と中臣鎌足の行動を皇極天皇(第35代、中大兄の母にあたる)も認めた。このクーデターは、この年の干支にちなんで「乙巳(いっし)の変」と呼ばれている。吉田氏によれば「乙巳の変」は中大兄と入鹿との外交政策の対立。国家という新しい機構をつくり、豪族たちをその機構内に再編成する道を中大兄、中臣鎌足が選ぶための戦いだった。
日本成立の契機。天皇あってこその摂政・関白(古代)。平清盛と源頼朝(中世)。後鳥羽上皇と後醍醐天皇(承久の乱と建武の新政)。織田信長と正親町天皇(近世)。天皇取り込みをはかった豊臣秀吉。明治維新(近代)と日清・日露戦争。日米戦争回避を願った昭和天皇。終戦の年の12月の輿論(よろん)調査で天皇制を是とする国民は90%強。日本史最大の謎解きに著者は体当たりした。(中央公論新社・1850円+税)
評・水口義朗(文芸評論家)