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【書評倶楽部】タレント・麻木久仁子 『文明開化は長崎から(上・下)』

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【書評倶楽部】タレント・麻木久仁子 『文明開化は長崎から(上・下)』

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女優の麻木久仁子さん  □広瀬隆著

 ■さきがけとなった偉人たち

 日本の近代はいつから始まったのか。「泰平の眠りを覚ます上喜撰(蒸気船)たった四杯で夜も寝られず」と詠まれた句から受ける印象そのままに、時代の流れに背を向け惰眠をむさぼった揚げ句ペリーの来航に仰天するような幕府を、開明的な維新の志士たちが打ち倒して近代化をはかった…というところだろうか。

 しかし、やせた土地にいきなり豊かな実りがあるものだろうか。明治維新でがらっと変わって文明開化というが、実はそれ以前から長きにわたりこの国の津々浦々で、多くの人々が知識見識、技術芸術、学問の畑を耕してきたのである。明治政府の殖産興業の成功も、その豊かな知の地盤があればこそなのだ。だが勝てば官軍。にわかに政治の場に躍り出たものたちは、気の遠くなるような努力を厭(いと)わずに知を積み重ねた人々を歴史の陰に追いやり、その果実はおのれの手柄とした。本書は歴史に忘れられた学者や技術者たちの業績を丹念に掘り起こし、この国の今に続く繁栄の基盤を作った人々に光を当てようとするものである。

 例えば福井の町医者・笠原良策やシーボルトの門弟・日野鼎哉ら、天然痘に立ち向かった蘭方医たちの苦闘。伊豆韮山代官にして、渡辺崋山や高島秋帆を師と仰ぎ、国際情勢を的確にとらえていた砲術家の江川太郎左衛門。西洋の概念を、その知識の体系ごと学んだうえで翻訳する、桁(けた)はずれに優秀な一群の通訳。こうした人々に学問と実践の機会を与えた蘭癖(らんぺき)大名や商人。

 広瀬氏らしく、師弟の繋(つな)がり・主従の繋がり・地縁血縁・金の流れ等々、多角的な徹底調査で実に多くの“忘れられた偉人たち”を救い出している。彼らの地道な努力、弾圧に負けない強い精神力、国を思い民を思う志、果てしない好奇心。この国の人材の層の厚さに驚かされる。

 文明開化のさきがけとなった日本の誇るべき偉人たちの膨大な記録を前にして、胸が熱くなる作品である。(集英社・上1900円+税、下2000円+税)

【プロフィル】麻木久仁子

 あさぎ・くにこ 昭和37年、東京都出身。タレントとして幅広く活躍中。書評サイト「HONZ(ホンズ)」メンバー。

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