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繊細な技と旬の素材を味わって わらびの里
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卵豆腐の砧巻きは中身も柔らかくあっさり味=2015年4月20日、京都市山科区(志儀駒貴撮影)
京都・洛東の“隠れ里”なる老舗料亭「わらびの里」。900坪の日本庭園は四季折々の表情を見せ、流れ落ちる滝の音は心を洗われるすがすがしい気持ちにさせてくれる。数寄屋造りの座敷に運ばれる会席料理の献立それぞれには一手間を惜しまない繊細な技が施され、味覚の濃淡は食通たちをうならせる。
案内文に「牛尾山の麓(ふもと)、音羽川のせせらぎが響く閑静な地」とある通り、門をくぐると都会の喧噪(けんそう)とは無縁の別世界が広がる。
落ち着いた和室に提供される会席料理。まず、先付はその日の朝に汲みあげられた湯葉に珍しいキノコの岩茸、ピリッと辛みを添えるワサビを混ぜ合わせて口に含む。湯葉はだししょうゆで味付けされ、味覚が混然一体となって広がる。
次に、前菜の皿には海の幸、山の幸が盛られ、見た目にも華やかで食欲をそそる。全長10センチの琵琶湖産の稚鮎(ちあゆ)には蓼(たで)のみそがかけられ、そのまま頭からがぶりと味わえる。
透明のグラスにはウニ、ジュンサイ、エビとオクラが煮こごりのように昆布のだしで固められ、軟らかく炊かれたアワビは、ちょっぴり渋めの裏ごししたアワビとアンコウの肝で味付け。白ズイキはごまだれソース添え、ユリ根は梅と青のりで渦巻き模様にして見た目も楽しませる。ちまきのひもをほどくと円錐形の鯛のすしが現れる。
向付(むこうづけ)は高級食材を使った刺し身の盛り合わせ。一輪の花のように飾りつけた厚さ約1ミリのハモの薄造りは皿が透けて見えるほど。梅肉のさっぱりとした酸味がマッチする。口内に甘みが広がる伊勢エビ、脂の乗ったマグロのトロ、皮に焼き目をつけた鯛…とぜいたくな刺し身のオンパレードには、つい舌鼓だ。
椀ものとして登場するのは卵豆腐の砧(きぬた)巻き。カニの身とゴマ豆腐、ハスイモを卵豆腐でくるりと巻き、大根とニンジンを帯に見立てた献立。「中身も軟らかく蒸し上げた」(福田隆夫総料理長)と言う通り舌触りにソフトで、鰹だしと薄くず仕立てであっさりと味付けされている。
「合肴」(あいざかな)は太い洋ネギを鶏ガラスープで1~2時間炊きあげ、その外側をアブラメで巻き、ウニやキャビア、クコの実を付き合わせた。エンドウ豆を使ったソースは黄緑色で目に鮮やか。「会席の和の中に一品、フレンチ風に仕立てた」(福田総料理長)特製メニューでもある。
豚の角煮はバルサミコ酢で味付けされ、酢の酸味が脂分を中和してくれるかのようだ。付け合わせのカブラは箸をつけると崩れるほど軟らかく炊き込まれ、ソラ豆とともに引き立て役に徹している。
蒸籠(せいろ)蒸しは一口で含める芽キャベツ、揚げたナス、ゼリーのように軟らかい粟麩、赤と緑の万願寺トウガラシなどが串刺しにされ、みそを塗って味わう。このみそは西京みそをベースにフキノトウを練り合わせてあり「旬の素材を味わって貰うことを一番大切にしている」(三宅信一社長)そうだ。
「口の中をさわやかにする」(福田総料理長)という酢の物は、湯葉で巻いたアボカドとサーモン、蛇腹に切って飾り付けたキュウリ、イイダコの足と頭を、卵の黄身と酢を合わせた“和風マヨネーズ”につけていただくと、さっぱり感が心地よい。
土鍋で炊いた鯛飯はショウガで風味付けされ、隠し味にバターを入れて口当たりをまろやかにした工夫作。コメは「魚沼産コシヒカリにこだわった」(三宅社長)という。甘味には抹茶ゼリー、わらび餅、季節のフルーツ…と3種類を提供し女性客らを喜ばせている。
春はサクラ、秋には紅葉…と季節の表情が楽しめる庭園には、イノシシ、鹿、狸や猿が出没、初夏には蛍も舞い野趣に富む“名勝”の地だ。(文:巽尚之/撮影:志儀駒貴/SANKEI EXPRESS)