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何でも最初から平均値ばかり狙う日本人 「引き算の美学のナゾ」
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「日本でいう平均は平均値の集合ですね。だから何でも最初から平均値ばかり狙うわけです。でもフランスで料理をやっていて思うのは、平均とは二つの極の組み合わせの結果なのです。それでバランスが生まれるわけですよ」
ニースと東京でフランス料理店を経営するシェフ・松嶋啓介さん(1977年生まれ)は語る。例えば食材に苦味があれば、それをとるのではなく、他の特徴的なものでカバーする。このアプローチがフランス料理だという。
「サッカーのチームにも言えることで、トルシエと話していても、彼の平均に対する考え方は当たり前だけどフランス式です」と日本とフランスの差異を説明する。
松嶋さん自身、レストランのチーム運営に、このフランス式のコンセプトを適用する。
「このスタッフはこの点ができていないと言って担当を外すのではなく、彼の得意な部分で活躍できることを考え、できない部分は他のスタッフが補う方向で考えます」と。
良い部分を褒めて伸ばすのが教育である、と日本でも繰り返し言われる。しかしながら「平均値の集まりとしての平均」をモデルとしている限り、「凹凸を基本とした平均」モデルとはそりが合わない。
日本の平均モデルが反映された食の現象って何だろう、と松嶋さんにさらに突っ込んでみた。
「日本のスイーツって甘さ控えめとなっていて、かなり特徴的な傾向と思うのですが、これなんかどうですか?」とぼくは質問した。
彼の答えはこうだった。
「好例です。毎日食べることを想定し、甘さを平均にならすことを考えた結果ですね。酸味との関係で舌に甘さが残る印象を減らすことをもっと試みるべきではないかと思いますね」
前提として寒い所では甘さを欲するからスイーツは甘くなりやすいが、フランスでスイーツを毎日食べるものとして考えない。
「毎晩のように、うちのレストランに来るお客さんはデザートを食べないでチーズで終わりにしますね」と説明する。
日本でも毎日食べる人が必ずしも多数派ではないのだろうが、毎日食べるケースを基準にしてしまう。健康意識の変化がスイーツの甘味を減少させたことは確かだろう。フィンランドやポルトガルで加工食品の塩分を長期にわたって減らし、心筋梗塞の発生率を70パーセント下げた事例もある。
ただ、甘味控えめスイーツは、何となく空気を読みながら突出しないことに配慮し過ぎた印象を受ける。
「日本は引き算の美学というけど、引き算で捨てていって何も残らないわけだ」とぼくがいうと、「結果としてマイナス部分を捨ててゼロに近づくだけですよ」と松嶋さん。
引き算の美学とは異分子排除のもう一つの表現なわけだ。
つまり異分子とは「平均値ではない」と同義だ。これで平均値のスペックでシンプルなミニマルスタイルが成立という「引き算の美学のナゾ」が見えてくる。
デザイナーも引き算の美学の深淵を極めるなんて哲学的なことを言って泥沼にはまっていないで、足し算の美学を学習するのも大切なんじゃないか。前回紹介したイタリアのファッションメーカー、ジョン・リッチモンドのデザイナーとして活躍する村田晴信さんが、ミニマリズムから装飾の美へ転換したプロセスは、まさにこの例にあてはまる。
実は足し算や掛け算が、日本料理の強みだとも松嶋さんは指摘するのだ。
「和食の特徴はうまみだという意見もありますが、うまみを分かっている人なんてどれだけいるのでしょうね。(大衆も食を楽しむようになった)飽食の時代以降の和食は、食材の組み合わせの多様性に強みがあると思います」
ダイバーシティという言葉が流行っている。しかし僕の目には「平均的なダイバーシティ」モデルを描こうとしているようにしかみえない。
もう一度、平均の意味から考え直してみたらどうだろう。