【ロンドン=岡部伸】メイ英首相が欧州連合(EU)離脱交渉で、単一市場参加継続を断念しても移民制限などの主権を回復する「ハードブレグジット」(強硬離脱)の意向を示すのは、昨年6月の国民投票を通じて移民流入抑制を求めた国民の意思を尊重したためだ。「特別な関係」にある米国のトランプ次期大統領がEU離脱を支持し、英国との早期貿易協定締結に意欲を見せる中、EU以外の国々との自由貿易協定を促進させ、経済への影響を最小限に抑えて国民の再統合を目指す。
約52%が離脱を支持した国民投票では、EUの「移動の自由」で急激に拡大した東欧などEU諸国からの移民が、医療や福祉を圧迫していることへの不満が指摘された。また、グローバル化の恩恵にあずかれなかった白人労働者からの富裕層への批判が国家分断を招いた。
このため、首相は単一市場への参加継続断念と引き換えに移民制限などの主権を回復し、EU離脱を選んだ国民の不満に応え、「世界中の才能を引きつけ、先駆者が居を構えるような、安全で豊かで寛容な国でありたい」と将来像を提示し、国民の統合を訴える。
また、米国など非EU諸国との自由貿易協定締結のみならず、EU各国とも「EU繁栄が英国の国益」として、個別分野の貿易関係での合意を目指す。首相は離脱で単一市場へのアクセスを失えば、タックスヘイブン(租税回避地)など新たな経済モデルを模索して競争力を回復することも検討、長期的な経済の打撃を抑える狙いだ。