■「生きる糧」を照らし出す
東大寺に安置されている「奈良の大仏(毘盧遮那仏(びるしゃなぶつ))」は、聖武天皇が発願(ほつがん)し、752(天平勝宝4)年に開眼供養が行われた。『与楽の飯』は、この国家的大事業に関わった者として、大仏鋳造の現場で働き、実際に造った人々に光を当てる。著者はこれまでにも『満つる月の如し 仏師・定朝』『若冲』といった小説を書いてきたが、本作は「創造行為」というものを、また別の側面から照らし出すものだといえる。
物語は造仏所の仕丁(しちょう)(役夫)、真楯(またて)の目を通して描かれる。しかし主人公というべきは、造仏所の炊屋(かしきや)(食堂)でまかないに精を出す宮麻呂(みやまろ)である。この実直な炊頭(かしきがしら)(経営者兼料理長)は、現場で汗水をたらして働く者のために、日々の献立に工夫をこらす。ある日は、「干し葉を刻み込んだ菜飯に、鶏の油煮(揚げ物)、薑(はじかみ)(生姜(しょうが))入りの茸(きのこ)汁」で、仕丁たちの腹を満たし、舌を楽しませた。