こうして書人たちは今日に至ったのだが、さて現代書はどうなのかというと、いまだ明治の日下部鳴鶴・比田井天来から始まる系譜が強く、手島右卿や青山杉雨の弟子筋が活躍していることが多く、そればかりが目立っている。残念ながら、幕末維新をくぐりぬけた三舟(勝海舟・高橋泥舟・山岡鉄舟)や副島種臣のような書は少ない。
ぼくはいっとき、墨人会の森田子龍と井上有一に接して「ああ、これだ」と思ったが、その後はこの奔放を受け継ぐ書人も少ないままになっている。いまこそ大胆不敵で自在な書人が出現することを、待望する。
【KEY BOOK】「中国書畫話」(長尾雨山著/筑摩書房、1700円、在庫なし)
中国の書や書史や書誌に遊ぶのは実に愉しい。愉しいだけではなく、日本人が身に付けておきたいリベラルアーツとして、そこそこを感じておいたほうがいい。中国では長らく書が芸術の最高の位置を占めてきた。そのうえで文房四宝が愛され、書画一致・詩画一致の境地が尊ばれてきた。そのような中国の書文化を実感するには、一挙にまるごと呑み干すのがいい。本書はその恰好の一冊で、名人雨山の書画骨董に対する目がだいたいわかる。歴史も見える。