【KEY BOOK】「釈迢空歌集」(折口信夫作・富岡多恵子編/岩波文庫、821円)
釈迢空の歌が中学期から追って収録されている。なんとも滲みいる歌ばかり、なんともヴァルネラブルな歌ばかりだ。ぼくはいつもこれらによって、自分の魂がどこかに連れ去られていくような感触をもってきた。この「どこか」とはおそらく「妣なる国」だ。ぼくを攫(さら)ったのは日本の客神たるマレビトたちだ。「おもむろに 吹きて立ちたる笛の座に残しし 笛を思ひ居たりき」「憎みがたき心はさびし。島山の緑かげろふ時を経につつ」
【KEY BOOK】「折口信夫の記」(岡野弘彦著/中央公論社、2200円)
『折口信夫の晩年』『折口信夫の記』『折口信夫伝』ともに、とてもありがたい本だ。岡野さんは折口の晩年を伴走した最後の青年だった。すでに少年愛を求めるところの少ない時期であったらしいけれど、岡野さんには万感こもる折口体験だったはずである。その岡野さんの歌には、何重にも釈迢空が投影されている。それは、いわば「いやはてに、鬼は たけびぬ。かくこそ、いにしへびとは ありけれ」という師の歌の魂を、生涯の齢をかけて継ぐものだった。