【KEY BOOK】「『失われた時を求めて(3)」(マルセル・プルースト著、鈴木道彦訳/集英社文庫、1080円)
この大作は、語り手である「私」の幼年時代の切れぎれの記憶と、その記憶が再生されるきっかけを与える幾つかのトリガーと、大人になった「私」がもつことになった社会意識と欲望の模様と、ついに正体をあらわさないプルーストの自我の出入りとで、できている。構成はまことに複雑で登場人物も多いのだが、そのすべての出入りを語り手の「意識」に委ねるつもりで読むと、おそらくひと夏の白昼夢のようにたちまち流れに乗れるにちがいない。プルーストがどのように執筆し、どのように修正したかを知るのも、一興である。いまでは研究者によって処女ノートから書き込み原稿まで、その推敲の過程がほぼわかる。やはりどうしても一度は手にとってほしい名作だ。(編集工学研究所所長・イシス編集学校校長 松岡正剛/SANKEI EXPRESS)
■まつおか・せいごう 編集工学研究所所長・イシス編集学校校長。80年代、編集工学を提唱。以降、情報文化と情報技術をつなぐ研究開発プロジェクトをリードする一方、日本文化研究の第一人者として私塾を多数開催。おもな著書に『松岡正剛千夜千冊(全7巻)』ほか多数。「松岡正剛千夜千冊」(http://1000ya.isis.ne.jp/)