ぼくは比較的早く日向子と知り合って、その素っ頓狂な時代オヤジぶりがおもしろくて(銭湯やバイクや落語が好きだとか)、しょっちゅう会ったりパーティに連れ出していたのだが、紹介した荒俣宏君が彼女を気にいって結婚してからは(長続きせずに離婚したが)、少し遠慮するようになった。その間、『お江戸でござる』などのテレビ番組のレギュラーになったりしていて、巷間ちやほやされていたけれど、それがなんだか気の毒だった。きっといろいろな事情がうごめいていたのだろう。1993年にマンガ家引退宣言をしてしまったのも悔しい。
日向子のマンガの魅力は、絞りに搾れば3つある。第1に、現代の浮世絵のような絵の描きっぷりがいい。線もいい、間(ま)もいい、コマ割りもいい。第2に、江戸の情緒・風合・洒脱がみごとに再生されている。さすがに黄表紙を読みこんできただけのことがある。第3に、時代社会の人間模様をなんともいえないヒューマニティを下敷きに組み立てていて、そこに奇妙や不気味や滑稽が出入りしているのが、たまらない。