たとえば『百日紅』は葛飾北斎と娘のお栄と居候の善次郎の3人の、自信と気っ風と失敗談が絡まりながら進行する傑作マンガだが、どこを読んでも間と情緒と滑稽が下町の風のように出入りしていて、現代のわれわれが失ったものが何であるかを告げてくれるのだ。
が、その日向子はもういない。せめて彼女が遺した“香ばしい失望”がたゆたうメッセージを受けとめるべきだろう。それがなくてはクールジャパンなどありえない。原恵一によるアニメ映画『百日紅』が、来年公開されるのが待ちどおしい。
【KEY BOOK】杉浦日向子『百日紅』上(ちくま文庫)734円
杉浦日向子を知るにも、北斎を知るにも、江戸の下町の庶民や職人の娘の生きざまを知るにも、本当のクールジャパンの味を知るにも、このマンガが欠かせない。1983年から4年にわたって「漫画サンデー」に連載された。北斎の娘のお栄は「オヤジと娘がいれば、それに筆が二本あれば、どうにでもなる」という気っ風の持ち主だが、さあ、そうは問屋が卸さないというのも江戸の下町である。それでもこの親と娘は逞しく生き抜いた。それが妙に美しい。