そのやるせない交感がたまらないところへ、正太郎や長吉らの悪童なりの心の背伸びが挿入される。今日の少女マンガの原点でもあろう。『にごりえ』は粋な酒の座敷を舞台に、客の結城朝之助に惹かれたお力の身の上話から始まる。朝之助は静かにあしらう。そこへお力に入れ込んできた源七の妻子との葛藤が絡んで、ひょんなことから無理とも合意ともわからぬ無理心中に話が進み、お力が名状しがたいままに死ぬことになる。どうして一葉がこんな成熟した物語が書けたのかというほど、情景の内奥は爛(ただ)れるように美しい。
【KEY BOOK】「大つごもり・十三夜」(樋口一葉著/岩波文庫、540円)
『大つごもり』はせつなく、すれすれで、どこか身を切られる思いになる。それでもほっとした年越しになるという物語だ。山村家に奉公している18歳のお峰は、暇がもらえたので初音町の伯父の家に行くのだが、そこで借金の延滞金の必要を聞く。お峰は山村に借りようとするものの段取りがつかず、思わず引き出しから1円札2枚を盗む。大晦日、お峰の盗みが露見するのだが、意外な結末が待っていた。何事もなく年が明けるのだ。