一葉の日々のディテールが変じた小説だ。『十三夜』は、夫の虐待に耐えかねたお関が実家に帰ると、父は怒り、お関は戻される。その帰途、上野で拾った人力車の車夫は幼なじみの録之助だった。煙草屋の一人息子だったのに、家産を食いつぶして自暴自棄になったようだ。2人はかつての淡い慕情を互いに隠して、黄昏の帳(とばり)が降りるなか、なんとも不思議な会話を続ける。「誰も憂き世に一人と思ふて下さるな」というお関のセリフが耳に残って離れない。(編集工学研究所所長・イシス編集学校校長 松岡正剛/SANKEI EXPRESS)
■まつおか・せいごう 編集工学研究所所長・イシス編集学校校長。80年代、編集工学を提唱。以降、情報文化と情報技術をつなぐ研究開発プロジェクトをリードする一方、日本文化研究の第一人者として私塾を多数開催。おもな著書に『松岡正剛千夜千冊(全7巻)』ほか多数。「松岡正剛千夜千冊」(http://1000ya.isis.ne.jp/)