このほか、ウサギに見えたりアヒルに見えたりする「多義図形」、単純な反復図形の中に見かけ上の歪みが生じる「幾何錯視」、明暗や濃淡をまちがって見てしまう「光滲(こうじん)図形」、地と図が反転すると別の図形が見えてくる「地-図反転図形」など、錯視図形といっても、その種類はけっこう多い。
いったい何がおこっているのか。謎は視知覚と脳との関係にあるとしか考えられない。ところがそのメカニズムがなかなかわからない。これまでは主に心理学の分野がこの謎に挑んできたのだが、いまだ謎の多くは解けていない。そこで東大の数理科学の新井仁之教授が数学的解明に乗り出して、その謎の一端を数理視覚科学として次々に証しつつあるのだが(大変すばらしい成果だ)、これを理解するにはいささか数学力が必要で、おそらく一般人からの理解はまだ遠いと思われる。
謎の解明はともかくも、錯覚や錯視やだまし絵やトリックアートはたいそうアメージングなので、子供から大人までついつい魅せられてきた。理由は明快だ。われわれは「だまされること」が嫌いではないからだ。とくに部屋の中の人物の大小が狂って見える「エイムズの部屋」なんて大好きだ。いや、判じ物も謎々もビックリハウスも好きなのだ。ここには紹介しなかったけれど、もっと本気でだまされたいなら、トロンプ・ルイユやアナモルフォーズの歴史に踏みこんでみるといい。美術こそ錯視だったのである。