さらには、なぜ炎をまとっているのか、なぜ火星に住んでいるのか、なぜ雨と一体になれるのか、そういった設定の説明は一切排除されています。彼らや彼らの世界における決まりごと、背景、ことわりは提示されないまま、物語は進行していきます。読者は作品の世界観を、ただそういうものなのだと受け止めるしかありません。
不親切と思われるでしょうか。しかし、実際に読んでみると「なぜ?」の感情は早々に消えうせてしまいます。理屈なんてどうでもよくなるほど、作品世界は魅力的です。文章は単語の一つ一つまで吟味されて詩的な印象を生み出し、読むものを手招きします。もしも読者へ世界観の理解を求めるための説明がなされていたとしたら、逆に興をそいだでしょう。それほどに不可思議は不可思議のまま、美しく完成されているのです。
人間の観点と神の視点
この作品を夢中になって読み終えたあと、私はこの作品世界を作り上げた著者のことを考えずにはいられませんでした。現実感が希薄でありながら、そうめんなどの昼ごはんが出てくる描写など、どこかリアルの匂いもする。著者はもしかしたらこの不思議さに満ちた世界に、本当に身を置いているのではないか。そう思っていたら、実際著者は占い師の顔もお持ちと知り、腑に落ちました。