人の数だけ世界がある。私には見えないものを見て、聞こえない音を聞いている人が存在する。
日常ふと忘れがちなそんなことわりを、著者は改めて思い出させてくれた一方、こんな印象深い一節もあります。
「だれかの幸せとわたしの幸せの、どこに違いがあるというのだろう。」
この一節が持つひろがりは、もはや個のものではありません。宇宙的で、神の目線とも言えるでしょう。この作品の素晴らしい点はここにもあります。個々での世界は異なると知らしめながら、その認識を超えた次元では、われわれはつながり、一つであると訴えているのです。両者は矛盾するようで、矛盾しません。個の世界は違うとするのは人間の観点で、われわれは突き詰めれば一つなのだと見るのは、個をはるか超えた高みから俯瞰(ふかん)する、いわば神の視点だからです。
さりげなく出てくるのですが、はっとさせられたあと、その意味深さに圧倒される一文です。