そういう事情のなかで、赤坂の『東京プリズン』は、この名状しがたい多重のディレンマを撥ねのけて、日本人が追いやられてきた陥穽(かんせい)から、みごとに跳躍してみせたのである。脱帽だった。できれば諸君も東京裁判の一部始終に通暁したうえで、『東京プリズン』を読んでみてほしい。(http://1000ya.isis.ne.jp/)
■まつおか・せいごう 編集工学研究所所長・イシス編集学校校長。『東京プリズン』の赤坂真理さんとは、2015年NHK-Eテレ正月特番「100分de名著」で共演した。『死者の書』や『「いき」の構造』をめぐって日本人論を語った。内容は4月刊行『「日本人」とは何者か?』にまとめられた。「松岡正剛千夜千冊」
【KEY BOOK】「東京裁判」上下(児島襄著/中公新書、778円、756円)
東京裁判の一部始終を集約して知るための定番の本。しかし東京裁判の問題が見えてくるには、上にも書いたように多くの関連事態を見ていくしかない。それには同じ著者の『満州帝国』『太平洋戦争』などとともに読むと、記述の平仄が合って理解が早くなる。もっとも本書は児島の本にしては、被告たちの家族との会話がいろいろ挿入されいて、仄かな人情が伝わってくる。平塚柾緒『図説東京裁判』なども併読して視覚的な確認もしてほしい。