そんな超絶的なストーリーを描写する作画家として白羽の矢が立ったのが、当時、西部劇から忍者もの、恐怖マンガまで広く手掛け、多才で頭角を現しつつあった川崎のぼるであった。
実は川崎は、最初この依頼を断っている。仕事に明け暮れ、野球に向ける関心もなく、草野球の経験さえ持たなかったからだ。しかし、彼に声を掛けた編集者は目が高かったというほかない。説得に応じて梶原に同行し、生の野球を観戦、意を決してこの仕事に臨んだ川崎の筆は、荒唐無稽と呼んでもよいこの世界を、まるで水を得た魚のように巧みに描き出していく。
ギャグから絵本へ
そうなると、おのずと本展の見どころも、本作の原画を中心に据える第一部「一球入魂~『巨人の星』連載開始」に集中することになる。けれども、このパートだけ見ていても、なぜ川崎のぼるが『巨人の星』にうってつけの作画家であったかまでは、わからない。その秘密は、前後の展示と併せ、デビューまもない頃から、今日なお途切れぬ切磋琢磨(せっさたくま)に至るまで、川崎のぼるの世界をトータルに捉えることで、初めて理解することができる。