【KEYBOOK】「羅生門・鼻・芋粥」(芥川龍之介著/角川文庫、391円)
最初期の作品。当時は「極めて小規模な、断片的な小画面にすぎない好事家的な作品」と酷評されていたが、漱石はその才能を見抜き評価した。勢いを得た芥川は擬古趣味を工芸細工師のように書きまくった。この蒔絵(まきえ)と象眼のような日本的細工の感覚はいい。ただし、これは長編にはならないだろうと思った。俳諧的であり、謡曲的なのだ。さすがに菊池寛はそこを汲んで、短編的な文学に芥川賞を与えることにした。
【KEYBOOK】「蜘蛛の糸・地獄変」(芥川龍之介著/角川文庫、350円)
表題作のほかに『袈裟と盛遠』『奉教人の死』『枯野抄』『邪宗門』が収録されている。いずれも「手に入れたいもの」と「手放してしまったもの」がトレードオフのきわどいゲームのように描かれる。芥川は小さな事例を選び、そこに大きな価値観の得失が出入りすることを書いたのだ。『枯野抄』は去来らの自我に対するに芭蕉の孤独な微笑が、『地獄変』は名人の誉れと娘の命を引き換えたところが、芥川の「神経ウェブ」に適ったのだ。