事件に直面したヒロシの行動は、実に自然で等身大だ。ヒロシには、人がどうして他人を傷つけたり、押さえつけたりしなければならないのか理解できないのだ。素朴な正義感から、おずおずと行動を起こす。
ここにこそ津村の全作品を貫く「フェア」の感覚がある。すべての人が同じように尊重されるべきだという信念。だからこそ、理不尽な暴力や児童虐待に対する津村の怒りは大きい。
いろいろあった1年が終わり、同級生たちはバラバラになる。ヤザワは競技に打ち込むため関東の高校に進み、大土居もまた大阪を離れる。すべては流れ去る。しかし、ヒロシがこの1年で得たものが消え去ることはない。読者はその確信を胸に、本を閉じることになる。(文芸春秋・1600円+税)
評・水牛健太郎(文芸評論家)